「貸与権を有した」図書館資料?
少し古い話で昨年秋のことになるのですが、「社会教育調査(図書館調査用)」というアンケートが文部科学省より送られてきました。ご存知のように3年周期で行われている統計調査です。
その記入用の「手引」を流し読みしていたら、いきなり頭の中がループし始めました。何がおこったのかわからず、少し戻ってもう一度読み返したらまたループ。???三度読み返してどこで脳内ループに入ったのかやっとわかりました。
「事業実施状況-図書等の貸出-視聴覚資料の貸出数」の回答記入についての説明が以下のようになっていたのでありました。
視聴覚資料の貸出数
貸出用として貸与権を有した視聴覚資料の貸出数。
なんとも凄い記述です。
「視聴覚資料」の内、ビデオ・DVD等の「映画の著作物」の図書館での貸出については、「貸与権」ではなく「頒布権」が適用されますし、また、「頒布権」を分与されてではなく、「許諾」を得て貸出可能になっているのだ、という関係になるので、まったく間違っています。
また、ミュージックCD等の他の視聴覚資料についても「貸与権を有して」貸出をしているわけではなく、図書館は貸与権(←著者が持っている)の権利制限の対象になっているために、著者からの許諾がなくても貸出できるという関係です。そもそも図書館が所蔵資料の貸出等の活用をするにあたって、「貸与権」「頒布権」に限らず著作権法上の「○○権」を「有する」ことは普通はない話(その図書館自身が著作者である場合は別ですが)なので、著作権法の基本的構造すらわかっていない人がこの解説を書いているということになります。
ただ老生が何より怖ろしかったのは、このアンケート調査には老生もこれまで何度か回答しているのですが、これまでこんな解説にはまったく気づいてはいなかったということ。あわててこの「手引」の冒頭を確認すると、この設問が今回から新設されたものであることがわかり、ほっとした次第。
あえてこの設問に解説を加えるとすれば「貸出用として許諾を得た視聴覚資料の貸出数」が適切なところでしょうが、そもそも解説自体が必要とも言えない設問ですね。なにやら「雉も鳴かずば…」という感慨を得ました。
著作権というものも一般にはわかりにくいものであるのが現状ですし、著作者自身だって変な(あり得ない)権利を主張する事例があるのも事実ですし、更には図書館員だって著作権の認識の怪しい事例は少なくないので、あまり居丈高に、鬼の首でも取ったように言うのがむしろ恥ずかしいお話ではあります。
とは言え、こうした「わざわざ指摘するのもなんだかなー」な事例がそこここに転がっていて、いちいち指摘するのも消耗的だが、かと言って放置しているものだからさらに淀みが深くなっていっているというのが図書館における著作権問題というシロモノであるような気がします。やはり、他を言うより、自分の足下の淀みからきれいにして行かなくてはいけませんね。
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