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2005年5月22日

人が人を蔑むとき

 サダム・フセインの下着写真の英国大衆紙での公開が報道されていました。なんと醜いことをするのだろうと思います。フセインの罪を告発し裁くことと、「パンツ一丁」の写真を公開して人を笑いものにすることとはまったく違うことです。

 人が一番醜く見えるのは、自分が優位に立っている、決して相手からの反論で自分が傷つくことはないという安心感の上に立って他人を笑いものにしている時だと、以前から老生は思っています。

 以前の岩波版『ちびくろさんぼ』絶版後の状況の中で、老生も図書館員の立場で人権派の人たちと話すことが何度かありました。老生は『ちびくろさんぼ』は「差別とまったく無関係」とは言いませんので、彼らから直接告発を受けることはないのですが、同時に彼らと同じ輪に参加するわけでもないので、彼らからは批判の対象にはなります。それは、最近の流行言葉で言えば「想定内のこと」でしたのでいいのですが、論議の果てに彼らの一人が捨て台詞をはいた時に、「人の尊厳・人権を言う人がなんと醜いことを言うのだろう。」と悲しくなったのを思い出します。

 その人はこう言ったのです。「自分たちは、『ちびくろさんぼ』はイヤだという人たちの思いを尊重して行動しています。あなたも本で調べるだけではなくて、彼らの声を直接聞くべきだと思う。。。まぁ、あなたのような鈍感な人には聞いても分からないでしょうが。」そして顔を歪めて嗤いました。その人は老生を嗤ったつもりだったのでしょうが、実は自分自身を嗤っていたように老生は受け止めていました。「ああ、やっぱりね」と思ったのを覚えています。「この人も、このパターンなんだな」。

 普通に考えれば、これは、他人に直接吐く言葉ではないでしょう。人は己が正義だと思えばどんな恥ずかしいことだってできるもののようです。また、この台詞は『ちびくろさんぼ』がすべて絶版になり、その他の「差別グッズ」がどんどん告発され廃棄されている中でのことでしたので、その人は明らかに自らの優位をたのみにしてその捨て台詞を吐いていました。さらに言えば、その人も老生と同じで、『ちびくろさんぼ』をイヤだというアフリカ系アメリカ人の声を直接聞いているわけでもなく文献や伝聞で知っているだけのことだったのです。

 老生は自分が侮辱を受けたということで悲しくなったわけではありません。人の尊厳を言い、人権を言う人が、そのような形で目の前の他人の、そしてつまりのところ自分自身の尊厳を壊して平気でいることが信じられない思いでした。

 もちろん人権を言う人がすべてそうだというわけではありません。ただ、状況がいろいろ変わる中で、自分が優位だという安心感の上にたっての他者への侮辱は、人のとりうる最も醜い行為だという一例です。

 人は弱いものですし、親しい仲間の飲み会で、対抗する他者のグループを嘲る言葉を吐きあって盛り上がることもあっていいでしょう。それが人の自然の行動だとも言えます。ただ、それを公的な場所でやるとなると話は別です。何よりも、それは自分自身の尊厳を自分で壊していることになると気付きたいものですね。

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コメント

魔女さん

 いつもありがとうございます。
 「力みもない」と読んでいただけたのが何より嬉しいです。
 トラックバックはついていました。ありがとうございます。
 レスター/ピンクニー版『ちびくろさんぼ』についての発信を昨晩拝見しました。『ちびくろさんぼ』について考えることがこういう形になっていくのは嬉しい展開です。こちらからもTBさせていただくことになると思います。よろしくお願いいたします。

葦岸堂さん、こんにちは!
またまたやってきました、魔女さんです。

「人が一番醜く見えるのは、自分が優位に立っている、決して相手からの反論で自分が傷つくことはないという安心感の上に立って他人を笑いものにしている時」

葦岸堂さんの、曇りも力みもない言葉に、胸をつかれました。こういうのを、本当の「凛とした」姿勢というのでしょうね。心から葦岸堂さんの言葉に共感します。

『さんぼ』自体ではなく、改作(『チビクロさんぽ』)についての討議の本をみつけたので、読んでみました(TBさせていただこうと思ったのですが、うまくいかなかったみたい・・・)。そこでも<差別>に関して活発な発言がなされていましたが、心理学者たちの討論のせいか、そこまでの暴言(・・・)はされていませんでしたよ。
こうした問題について考えることをやめたり、人の痛みを顧みなくなるようなことがあってはなりませんが、その姿勢がこんな形をとるのであれば、台無しですね・・・かなしい。

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