復刻(海賊版)『ちびくろさんぼ』は、、、
3月に話題となり4月に瑞雲舎から復刻された旧岩波版『ちびくろさんぼ』についてのコメントを連休中に渡り歩いてみて「懐かしー」のオンパレードにいささかびっくり。過半数はそういう反応だろうとは思っていたけれど、九分九厘そうだとまでは。。。
もちろん、個々人の「懐かしさ」に文句をつける筋合いではないのだし、1996年にアフリカ系アメリカ人向けの絵本として『さんぼ』をリメイクしたジュリアス・レスター(この人もかなり「意識的な」アフリカ系アメリカ人)だって子どもの頃に読んだ懐かしさを語って「だって、面白かったんだよ」ってなことをネットで書いていた。
ただ口承民話から創作するような場合はともかく、ちゃんとオリジナルの絵本(テキスト+イラスト)として創作された絵本が、イラストを差し替えて何十種類もの版(つまり「海賊版」とでもいいますか)で流通してしまっていたというようなお話しは、ほとんどのブログで触れられてすらいないので、いささか驚いたという次第。この本を差別だと思うも思わないも、海賊版状況などのこの本の来歴とはまったく無関係には触れられないと思うんですけれど。。。
数少ない例外が DORAの図書館日報さん(3月21日他)と本棚の魔女の、魔法の本棚さん(4月27日)くらいでしょうか。(他にもあるのでしょうが、なかなか見切れていない。そして、えらくタイミングを失したトラックバックで申し訳ないです。)
ところで、この岩波版を復刻した瑞雲舎版って、原作はフランク・ドビアスのイラスト作品ですけど、そのマクミラン版オリジナルの表紙をみただけでも日本版と大きく違うのですよね。考えてみれば当然なので、岩波は日本風の縦書き絵本に仕立てたけれど、オリジナルの英語の絵本はそうじゃなかったでしょう。つまり横のものを縦にするということでかなり原作のイラストを切り貼りしている筈なのでして、いくら著作権の期限が切れていたのだとしても、「同一性保持権」的にはかわいそうなお話になっちゃってます。
つまり、この絵本、ヘレン・バナーマンさんのオリジナルからすると、海賊版の上塗り状態なのですね。
1)1927 マクミラン社が、イラストをドビアス作に付け替えた。
2)1953 岩波がドビアスのイラストを切り貼りして絵本の構成として改変した。
3)2005 瑞雲舎が岩波に断りもなく岩波版をそのまま復刻した。(2の改変作業に岩波の編集著作権を認めるとしても出版後50年の2003年で著作権は期限切れですが。)
褒められるにせよけなされるにせよ、自分が書いたオリジナル作品として評価されないのって、バナーマンさんもかわいそうですよね。
因みに、老生自身は『ちびくろさんぼ』の幼児記憶がまったくありません。レイさんの「おさるのジョージ」シリーズとか、木下順二さんの『かにむかし』とかは鮮明な記憶があって「懐かしー」のですが、、、
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本棚の魔女さん
コメントありがとうございます。
そう、blogで見る限りは魔女さんは例外的でした。魔女さんのアウトプットを楽しみにしています。
老生も、自分なりにはいろいろ調べて自分的には「もう終わった」つもりでしたが、この懐かし大合唱という現象にはとても興味を覚えてきました。
たしかに、いくら岩波版が海賊版でも、それしか知らずにそれに接して「面白い」と思った人たちのその気持ちは海賊版(偽物)ではなくて本物ですからね。
またいろいろ教えてください。
投稿: 葦岸堂 | 2005年5月11日 22:52
葦岸堂さん、はじめまして!
<本棚からしあわせの輪をひろげる>本棚の魔女です。(^^)
このようなかたちでご紹介いただき、思わず顔を赤らめる魔女さんですが、ちゃっかりふたつもTBさせていただきました。(m_ _m)
そうだったんですか、復刊については「なつかしい」「好きだった」的なコメントが多かったんですね。知りませんでした。これを機に、いろいろ調べて考えた魔女さんのほうが例外だったんですね。うーん。
この件に関しては、まだまだアウトプットしたいことがたくさんあります。いっしょに考えていける方にであえて光栄です。
投稿: 本棚の魔女 | 2005年5月11日 03:03
コメントありがとうございます。
このイシューについて書きづらいご事情がおありらしいとわかっていながらトラックバンクを付けてしまって申し訳なかったです。BBSの文法には馴染んでいるつもりですが、ブログの文法にはまだ馴染めていなくって、トラックバックとコメントそして単なるリンクの使い分けがよくわからないのです。
ヘレン・バナーマンさんについては、19世紀生まれのイギリス人(ご本人は「私はスコットランド人です」と言うかもしれませんけど)が普通そうであったようには人種問題について差別的(←現在の観点で言えば)であった可能性は高いと思います。でも少なくとも意識的な人種差別主義者というわけでもなかったのでしょう。
絵本を含めた文学作品の「差別性」をめぐる論議は、多くの場合作品の内容そのものよりも、その作品の社会性・社会的影響力を根拠としています。さんぼは差別だと強く主張する人も、差別などとは無縁だと言い放つ人も、どちらも原作品・原作者を疎外した場で発言しているように思えてなりません。
そうした社会現象のひとつとして、現在の日本の「岩波サンボ懐かし」現象は興味深いものですね。
また、いろいろ教えてください。
投稿: 葦岸堂 | 2005年5月 7日 00:03
こんにちは。
doraと申します。
トラックバックありがとうございます。
この件については、書くに書けない事情も背景にありましたので、不用意な記事はあまり書けなく、とても歯切れの悪い文章となっていました。
個人的な考えとしては、この出版によって単に岩波版がまた入手できるという、単純な衝動によって5万部ともいわれる販売となったと認識しております。
この絵本をバンナーマンさんが英国の植民地支配というインドの地で、どのような心理的影響を受けて書いたか、これは本人しか知る由もありませんが、その原作者の手を離れ、勝手に出版された海賊版の影響も相俟って、このような差別の汚名を着せられたことは、書いた本人も創造していなかったでしょう。
この復刊本も良心的な店では、他の類書や「さよならさんぼ」などの研究書と並べて売っていました。しかし多くの店ではそんなことは関係なく「待望の岩波版復刊」などのキャッチコピーで売られていることが、今の日本の儲け主義を象徴しているかのようで寧ろ恐い気がします。
それでは、またお邪魔します。
投稿: dora | 2005年5月 6日 10:36