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2005年5月15日

公共図書館と『ちびくろさんぼ』(再)

 『ちびくろさんぼ』の版に関する話で足踏みをしてしまってました。図書館とくに公共図書館での扱いについても触れておかなくてはと「カテゴリー」にわざわざ「知的自由」(「図書館の自由」)と入れておいたのに、まだ触れられてませんでしたね。

 今回の復刻のニュースを知った時、1999年の径書房によるオリジナルとオリジナル翻訳版の発行の時の状況からして、今回も強い絶版要求運動に出版社や世間がなびくことも、図書館での扱いが話題になることもないだろうなと知人とは話してました。
 ただ危惧があるのは、以前の状況下で『ちびくろさんぼ』を閲覧制限にしていた図書館で、その後の論議をしていなかった場合に「お役所的な整合性」の立場から今回も「閲覧制限」という扱いになる事例は出てくるだろうな、というところです。

 ブログで珍しくこの問題にふれているのは「愚智提衡而立治之至也」さんの3月14日の記事です。ここで次のように述べてらっしゃるのはまことにその通りだと思います。

本質的にこの手の問題は読者が考えるべきもので,公共図書館がその利用に対して何らかの意見なり制限なりを付け加えるべきものではない

 とは言え、昨今こうした見識を述べ、述べるだけでなく具体化できる立場の人(司書職員)が、どんどん臨時職員に置き換わり、そして図書館業務が委託されていっているという状況下で、それを具体化する仕組みが骨粗鬆症状態になっていっており、今後もそれが進むように思います。

 それでも根幹部分に司書がいれば大丈夫なのではないか、という意見もありますが、実際にはカウンター業務などを譲渡させられている職場では司書の発言権や影響力も衰えているとも言えますしね。業務委託の項目としてもそうした「図書館の自由」「知的自由」にかかわる政策的判断が入ることもありえないでしょうから、委託先にどれほどしっかりした司書がいても権限外のことになります。また、こうした問題について『ピノキオ』問題や、『名古屋市史』問題等への取組を通じて「検討の三原則」という大きな一里塚を築き育ててきていた名古屋市立図書館の自由委員会でさえ、昨年の「週刊文春」出版差止問題ではにわかに判断がつかず、司書資格を持っていない行政職の中央館長の一喝でようやく公開原則を守れたという事実が示すように、司書のパワーも低下している中では尚更です。

 ところで、数年前になりますが、全国的な図書館業界の研修の場で、関東地方のある大都市の図書館を司書課長で退職した方が講師となり「『図書館の自由』などというのは、司書の視野の狭さのあらわれだ」とおっしゃっているのを聞いて驚いたことがあります。その方によれば「司書はもっと行政職の視点を知らねばならない。行政として人権問題への対応が大事であり、現に差別に苦しんでいる人がいる中で、『図書館の自由』などを言うのは視野が狭い証拠だ。」ということでした。

 司書が行政的な観点を保つことが大事だというのはまったく賛成ですが、その後の「図書館の自由」に関するコメントは、関西で子どもの頃から部落差別や韓国・朝鮮人差別が身近にある中で育ってきた老生のような者の視線で見れば、そのおっしゃりようが関西の人間が20~30年前に論議していたような内容だったので「またあそこまで戻るのか? やっとここまで進んできたのに」といささか暗澹としたことがあります。元々「行政の観点」とは何の関係もない(別に矛盾するわけでもない)「図書館の自由」を司書職の管理職が持ち出してそのような発言をするというところに、その大都市の司書のパワーの低下を知らされたことでした。

 「図書館の自由」「知的自由」というのは、言論のレベルではほんとにシンプルなことなのですけれどもね。

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葦岸堂: こらむで『ちびくろさんぼ』 」今月号(2005年5月号)の「こらむ・図書館の自由」が瑞雲舎版『ちびくろさんぼ』の出版(復刻)に触れていました。 ... 執筆者の井上靖代さんは、1988年の岩波版などの絶版の後、図書館の現場で『ちびくろさんぼ』/『ちびくろサンボ』... ちびくろさんぼ t=... [続きを読む]

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